昨日、開店から半年の節目を迎えました。いつもの日曜日よりたくさんのお客様に
ご来店いただき、片付けが済んでから女将と2人、数日遅れのボジョレーヌーボーを
飲みながらささやかなお祝いをしました。
飲食店の経営は初めての経験ゆえ、この半年は様々な気苦労や体力的な行き詰まりも
感じましたが、振り返ればあっという間の日々でした。開店前にああしようこうしようと
思っていたことの半分もできなかったという反省はありますが、とりあえず我慢強い
お客様に恵まれたのは幸せの限りです。
これまで延べ1000人以上のお客様にご来店いただきましたが、それぞれに思い出があり、
様々な経験をさせていただきました。特に日頃日本酒を飲まない若いお客さんが当店で
日本酒の美味しさに目覚め、その後頻繁に通っていただけるようになったのは
“日本酒バー冥利”に尽きます。一方で日本酒は「悪酔いする」「糖尿病になる」など
言われのない悪評を振り払うのにも四苦八苦しました。
そんな中で、とても印象に残っている1人のお客様がいらっしゃいます。60代の男性の方で、
店に入られるなりある銘柄を指定されました。たまたまバックヤードにあることを思い出して
お出ししたら。静かに口に含んで時間をかけて味わわれた後、こうおっしゃいました。
「この酒は30年ぶりに口にしました。2年前に亡くなった家内と新婚旅行で訪ねた土地で
飲んだ酒です。その後、2人で飲み屋に行く度にその銘柄を探しましたがついに出合うことは
ありませんでした。思いがけず今日ここで出合えて嬉しいやら懐かしいやら。亡くなった
家内にも飲ませてあげたいです」
酒はただ単に舌で味わう嗜好品ではなく、飲んだ場所や時間、同席した相手の思い出まで
擦り込まれるような、いわば脳で味わう飲み物だということを実感しました。そうした
人生の襞にまで入り込めるような店になれれば最高だと思っています。これからも一期一会の
出会いを大切にしていきますので、引き続きのご贔屓をよろしくお願いします。
そんな新人店に力強い援軍が登場です。12月3日発売の『東京人』の表紙に当店の外観写真を
使っていただけるということです。本文では太田和彦さんの洒脱な文章で紹介されるみたい
ですので、本屋さんで見かけたら見てやってください。そのうえで宜しければこれからの
半年、1年を店で実際に見届けていただけたら幸いです。
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