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飲食店はネットとどう付き合うのでしょうか

以前勤めていた雑誌社を辞める少し前のことですが、「時代は変わったな」と痛感する体験をしました。ある記者会見の会場に赴いたところ、会見場の一番前の“一等地”に「ブロガー様御席」という貼り紙がしてあったのです。そこに集まったブロガーさんたちは皆ノートパソコンを持ち込み、会見の内容をその場で打ち込んでいました。写真も我々のようにカメラマンなど使わず自分で撮影しますから、リアルタイムでページを更新することも可能なわけです。

会見を開いた企業側にとっても、掲載まで時間がかかる既存メディアよりもスピードが段違いに速いうえに、基本的にはその企業や商品などに好意的なブロガーを集めることで、宣伝効果も高いというメリットがあるのでしょう。ネット時代ならではの変化なんだと納得しようとしましたが、何かもやもやした違和感のようなものを覚えました。

私のようにメディアに就職した人間は、新人時代から取材のやり方や文章の書き方などの訓練を受けます。中には取材先との距離の取り方といった言葉では説明しきれない微妙な心構えも叩き込まれます。取材先から無用な便宜供与を受けて癒着するようなことがあっては記者失格と見なされます。だからこそ中立的で客観的な記事が書けますし、時には相手に対して厳しいことも堂々と言えるわけです。

また、自分が書いた記事は少なくとも3〜4人の人間の目を通ってから印刷に回されます。それによって間違いや勘違い、一方的な思い込みは排除されます。もちろん客観性と良識をベースに記事を書かれているブロガーの方がほとんどだと思いますが、何のチェックも受けていない一次情報がそのまま流されることの怖さをぬぐい去ることはできないのです。

今さらこんな昔話を思い出したのは、同業者の方から「ネットで店の悪口を書かれて困っている」とか「ネット検索で来店されるお客から変な誤解や思い込みを押し付けられる」といった声をよく聞くようになったからです。正当な批判や意見なら許容できるものの、たまたま1回だけ来店した際に起こった出来事を針小棒大に書かれたり、店独特のローカルルールといったものに馴染めずに批判されるのが我慢できないというのです。

中にはネット上で電話番号を非公開にしたり、「店内では写真撮影禁止」「ネット掲載お断り」といった実力行使に動いた店もあります。一方では、自前のホームページなどを持たない店にとって貴重なPR手段と好意的に捉える店もありますから、安易にシロクロをつける話ではないのも確かです。当店に関しても多くの方がブログなどで好意的に紹介してくださり、それを見てご来店された方もたくさんいらっしゃいます。

そうした方々には感謝する一方、きちんとしたチェックを経ない有象無象の情報が錯綜するネットの怖さも感じています。例えば、断りもなく撮影されたと思われる料理写真以外に、我々の顔写真までもがネット上で公開されているのを見て、通常の取材ルールを逸脱しているケースが少なくないと思わざるを得ないのです。飲食店は社会的に開かれた空間ですから何を書かれても仕方ないと覚悟はしていますが、少なくとも一言声をかけていただけないものでしょうか。そのうえで聞かせていただく意見や批判は喜んでお受けします。

また、ネットを見て飲食店を探されるお客様には、くれぐれも情報の取捨選択や吟味を忘れないようにしてください。今の自分の立場を忘れてこんな生意気なことをあえて言うのは、自分が店を選んで客になる際に心がけていることでもあるからです。こうしてネットが店とお客の良好な関係を築く媒体になることを信じて付き合っていこうと思っています。

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6 Comments to “飲食店はネットとどう付き合うのでしょうか”

  1. 確かにネットは初めてお店に伺う際にとても参考になります。
    でもそれはあくまでお店に事前に伺う前の参考にするだけ、後は自分にとって良い時間を過ごすことができる居場所であればそれだけでいいんです。

  2. ittokuさま

    カウンターの外側から内側に入ると、お客の目から店がどんな風に見えるかがわかりにくくなるものです。
    そういう意味では、ネットに書かれた意見を見ていると色々な感じ方があるんだなあ、と参考になります。
    とはいえ、最近はあまり気にしなくなりました。自分の信じるやり方をまっとうするのみです。

    suga

  3. 私も一お客さんなのですが、内輪ベースながらお店の感想はネット上の日記に書いたりするので、この話はよく考えます。
    昨今は蔵元さんとお話するのにボイスレコーダーもってきて聞いた聞かないの確認してワールドワイドブログ化する方もいらっしゃるそうです。
    いい噂も悪い噂も恐ろしい早さで伝わって行き、影響が読めない。
    かといって、不特定多数から見られるところで伏せた書き込みすると内輪ネタのしったか臭い内容になってしまいます。バランスが難しいというか、沈黙は金なのかとか。やはりいろいろ考えます。

    sugaさんの場合、宣伝しようと思って宣伝してないのに酒縁が強力すぎて雑誌やムック本に載りまくってしまったので余計心外な気持ちが強いんだと思います。旦那の人となりを知らない方は、えらい目立ってるなぁと、そう思っても不思議でないぐらいですからね(^^;)

    ふと、山下達郎さんのこのブログを思い出しました。
    http://www.asakyu.com/column/?id=1037
    みんな悩んでいるんですね…

  4. 中目さま

    中目さんはIT社会に近い場所で仕事をしていらっしゃるので、その影響力や怖さなどを
    知悉したたうえで賢明な付き合い方をしておられますよね。さすがです。山下達郎の苦悩に
    比べれば僕の場合は「やれやれ」といったため息レベルですが(笑)。

    最近、「店の事をブログに書いたので間違いがないかチェックしてください」とわざわざ
    知らせてきた人がいました。お互いの信頼レベルで何となくルールめいたものが出来て
    いけば嬉しいなと思っています。

    suga

  5. 耳が痛い話ですね。ワタクシも弱小ブロガーとしてよく撮影を
    させていただく場面があります。一番最初にお許しをいただく
    ようにしているつもりではおりますが必ずかというとそうとも
    言い切れないかも知れません。

    美味しかったもの、楽しかったこと、嬉しかったこと、そんな
    ことを書き残しておきたいと思うだけなのですね。昔なら日記
    なんて書いたこともなかったのに、ましてや自分の日記を恥ず
    かしげもなく、人前に晒す時代が来るなんて思ってもみません
    でしたけれど^^。

    今では、それを書くことで同じ楽しさをわかってもらえたらな
    と考えるようになっていますね。「信頼」というのは、大切な
    キーワードですね。

  6. サラさま

    ほとんどのお客様がそうした“善意”でブログを書いていると思います。
    こちらまで楽しさが伝わっくるブログを読むのは楽しいものです。
    問題のかなりの部分はサイトの運営者にもあります。

    「投稿者が自由に書き込むサイトだから」という理由で明らかな間違いや
    悪意に満ちた投稿の訂正や削除に応じない一方で、「毎月お金を払えば店の
    ポイントが上がりますよ」といった営業をしている某サイトのあこぎさには
    腹が立ちます。「日本最大級」のサイトになったのなら、それなりの責任を
    もって情報管理をしていかないと健全なネットコミュニケーションは育たない
    ような気がしています。

    suga

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